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ローマ帝国の皇帝フリートリッヒ1世が言語学上の実験を行いました。人間が親や周囲の人から何も教えられないで、みずから言葉を語り出すだろうか、もし言語を語るとすれば、その原始語はどういう物であるだろうかを確かめるためるためだったそうです。それで、生まれたばかりの赤ちゃんを島のある地区に隔離し、子供たちの世話をする者も子供達の前で決して言葉を語ってはならないと命じました。ところがこの実験は失敗に終わったのです。というのも子供達が皆死んでしまったからです。この悲惨な結果が言葉を語りかけて貰えないことによって、子供たちは生きてゆけなかったという厳粛な事実が明らかになったのです。同じような事が第二次世界大戦の時にも起りました。ドイツに戦争孤児が沢山来て、孤児院に収容されていましたが、保母の数が足りなくて言葉をかけてやることができませんでした。その結果、そこの子供達は4歳になるまで人間の言葉を全然話す事が出来なかった、ということです。人間は外から語りかけられなければ、みずから言葉を語り出すことができないとう点で、全く同じ結果となりました。
赤ちゃんが分かりもしないのに、母親は一生懸命に赤ちゃんに語りかけますね。これには大きな意味があるのです。その音声と表情を見て、その語りかけの中にこもっている愛を理解するからです。この積み重ねによって、やがて次第にいわゆる本当の理解が与えられるようになる。つまり言葉とは愛を媒介するものなのです。従って、言葉の無い世界とは愛の無い世界。愛の失われている世界。現代人の言う孤独な世界。満員電車で押し合いへし合いしていても言葉が無いとこでは人は孤独なのです。逆に遠く離れていても、言葉さえ奪われなければ、人間は孤独ではない。(補足解説:メールやスカイプをしている限り外国にいる友人とも友情をキープできる。)こうして見ると言葉とは人間を人間であらしめるために無くてはならないものであることが、よく分かります。
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以上、講演会の一部の要約です。この後、高橋先生はいわゆる「鍵っ子」親不在の家庭で子供が不良化してゆくことを憂慮しつつ、言葉を無視し、言葉を与えようとしない人々の社会がいかに腐敗するかということを指摘しています。先日ラジオのアナウンサーが「自分は独身でマンション暮らしで、仕事の無い日は全く人と話をしないことがある。」と言っていたのが印象的です。今日、プライバシーを好むあまり、マンションの一室という独房に入り、人との会話の機会を失っています。高橋先生の指摘の通り、人間らしく生きるには言葉が必要であり言葉は愛を媒介するものです。そして、赤ちゃんは外部から言葉をかけられる事で、自分の存在を確認し、愛されていることを確認し、やがて自分も言葉を話し始める。このコンテキストで「はじめに言葉があった」というヨハネ1:1は興味深いですね。そして、ことばは人となって私達の間に住まわれたのです。(ヨハネ1:14)イエス様は言葉そのものなのです。
そして、本道に戻ると、「人は神の口から出る一つ一つのことばによって生きる」とう真理です。人間は神に語りかけられることで、自分の存在を確認し、愛されていることを確認するのです。そして、生きた者となるのです。だから毎日デボーションの中で御言葉を開きます。神の言葉を聞きます。それによって今日生かされるからです。この外部からの言葉の語りかけ無しに、パンがあっても今日、人間として生きる事ができないのです。神は沈黙の神ではなく、語りかける方です。キリスト教は「聖書」という神の言葉により成り立っているものです。はじめに神が語ったのです。人はそれに応答して自分の罪、赦し、存在、他者との関わり方を知ってゆくのです。そうしてあるべき人間になってゆくのです。それを霊的成長といってもいいでしょう。また、神の語りかけを受け取るだけでなく、それをお互いの間で分かち合うこと(言葉として語り合うこと)も重要です。自分が神から受けたことを自分の言葉で他者に語ることは力となります。神の言葉が生きている証拠ですね。
言葉は愛の媒介だけでなく、そもそも言葉が無ければ考えられないのです。だから動物が抽象概念を把握することは難しいでしょう。言葉は人を生かしもし、傷つけもします。この大事な言葉の扱いについてヤコブ書は長々書いています。また、言葉は人を鼓舞し勇気つけます。最後にもう一度、高橋先生の言葉を引用して終わります。
「一人一人の持つ力は、社会の巨大な力に較べれば、とるに足らない小さなものだという見方もたしかにありましょうが、その反面また、真実な1つの魂が神の真実を慕い求めて生涯を歩み通すとき、そのただ一人の存在がどれほど大きな祝福を後に残してゆくものであるかということも、私どもは決して見逃してはなりません。」
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栗原